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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)1784号 判決 1978年1月31日

原告(反訴被告)

小堺桂子

被告(反訴原告)

坂井信輝

ほか一名

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)小堺桂子、同小堺はまに対して各金九六万七、〇四七円及び内各金八七万七、〇四七円に対する昭和四九年一月一八日以降各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)小堺桂子、同小堺はまは、被告に対して各金三三万一、七九一円及びこれらに対する昭和五一年三月一七日以降各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)小堺桂子、同小堺はま及び被告(反訴原告)のその余の各請求はいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じて四分し、その三を原告(反訴被告)らの、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決の第一、二項は仮に執行することができる。

事実

第一申立

以下において原告(反訴被告)を単に「原告」、被告(反訴原告)を単に「被告」といい、また原告らについては「原告桂子」、「原告はま」と略称することがある。

(原告ら)

「本訴請求につき」

一  被告は、原告小堺桂子、同小堺はまに対して各金四六二万円及び内金四二〇万円に対してそれぞれ昭和四九年一月一八日以降各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  本訴訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

「反訴請求につき」

一  被告の反訴請求を棄却する。

二  反訴訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

(被告)

「本訴請求につき」

一  原告らの本訴請求を棄却する。

二  本訴訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決。

「反訴請求につき」

一  原告らは被告に対し各自金四七万四、一三〇円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

第二主張

(原告ら)

「本訴請求原因」

一  事故の発生

昭和四九年一月一八日午前九時三〇分頃、横浜市緑区荏田町四二三番地先道路において、亡小堺英男(以下「英男」という。)が自動二輪車(品川ま四七六七、以下「原告単車」という)を運転して東京方面から横浜方面へ向つて進行中、反対方向から進行して来て右折する訴外小山敏明運転の大型特殊自動車(ミキサー車、横浜八八さ一〇一六、以下「被告車」という)の前部と衝突し、同人は内臓破裂により横浜市所在の青葉台病院で同日午後二時頃死亡した。

二  責任原因

被告は、事故当時被告車を所有し、これが運行供用者であつたから、自賠法三条の責任がある。

三  損害

1 亡英男の損害

(一) 治療費等 二九万一、六一〇円

(イ) 青葉台病院 二八万三、六一〇円

(ロ) 文書料等 八、〇〇〇円

死亡届、死体検案書の他検死料を含む

(二) 逸失利益 二、三六八万三、七二一円

亡英男は、昭和一七年五月二七日生れで、事故に至るまで健康であつた。そして昭和三七年より古川彦一郎の許で造園業に従事していたが、さらに昭和四四、五年頃からは康友建設に勤務するようになり、事故当時毎月平均一四万三、五〇〇円の収入と職業柄祝儀等が毎月四万円相当あり、結局毎月一八万三、五〇〇円の収入を得ていた。

事故時亡英男は三一歳八ケ月であつたので、就労可能年数が三六年あつたと見込まれ、生活費三五パーセントを差引いた収入がこの間にあつたと認められるので、ライプニツツ方式によりこれを現価に引直すと右金額となる。

(三) 葬儀費用 四〇万円

原告ら各自二〇万円宛

(四) 慰藉料 各四五〇万円

原告桂子は亡英男の妻、同はまはその母であるところ、原告両名は、一家の精神的、経済的支柱たる英男の死亡により甚大な精神的苦痛を蒙つた。その慰藉料としては右金額をもつて相当とする。

(五) 損害の填補等

原告両名は右損害のうち(三)の葬儀費用は等分に負担し、また(一)治療費等、(二)逸失利益については相続人としてこれを等分に相続した。よつてこれら並びに慰藉料を合算すると、原告両名の損害は各一、六六八万七、六六五円となるところ、自賠責保険金八二二万八、二八八円及び被告らから見舞金三万円を受領したので、この合計を等分して右各損害に充当すると、原告両名が被告に賠償請求できる残額は各一、二五五万八、五二一円となる。

(六) 弁護士費用 各四二万円

原告両名は被告に対する右賠償請求権のうちその一部である各四二〇万円についての取立を弁護士に委任し、右各金額の手数料、報酬の支払を約した。

四  結論

よつて被告に対して原告両名は各四六二万円及び内弁護士費用を除く各四二〇万円について事故当日の昭和四九年一月一八日以降各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める次第である。

「免責の抗弁等に対する答弁」

一  被告の主張とは異なり、亡英男は青信号で本件交差点に進入したものである。

従つて本件事故は、右折車たる被告車の運転手たる訴外小山において右折する際に対向直進車の有無を確認し、直進車と接触する危険がある場合には一時停止してその通過を待つてから右折を開始しなければならない義務があるのにこれを怠り、対向車線を直進して来た原告単車に気付かないまま漫然と右折しようとした過失によつて生じたもので、亡英男には過失はない。

なお事故直前勝田方面から進行して来た本件交差点で一時停止していて本件事故を目撃した飯田一富は、亡英男が信号の変り目をはるかに過ぎた赤信号を無視して本件交差点に進入した旨供述するが、これは客観的事実と矛盾するのみならず、同人の供述は自己矛盾があつて措信できないところである。

よつて原告らは、本件交差点の信号表示、事故態様等からしても亡英男が青信号で本件交差点に進入したと推認するものであるが、仮にそうでないとしても同人が黄信号もしくは信号表示の変り目の赤信号で本件交差点に進入したことは明らかである。すなわち右飯田一富において車を発進させた直後本件事故が生じているが、同人は本件交差点で左折しようとしていたところ、職業運転手の常として左折可の信号の前触れである原告単車の対面信号(別紙図面「1の(ロ)」の信号)が黄になつたのを見て発進しようとして本件事故を目撃したと認められるからである。

そうだとすると次に述べる自動車運転手の通常の措置、本件交差点の信号表示が時差式であることを考慮すると、本件事故発生につき訴外小山の過失が寄与していることは明らかである。

二  すなわち通常交差点の直近で対面信号が黄や赤に変化しても自動車の速度から直ちに急制動の措置をとると交差点内で停止すると判断される場合には、そうなれば交差道路の交通の円滑、安全を損う結果となるので、周囲の状況、全赤時間があることから場合によつては自動車運転手はそのまま交差点を通過してしまい、その結果円滑な交通が保たれているのが実情である。

よつて右折車の運転手は、自車の対面信号が青である場合は勿論、黄あるいは信号の変り目の赤である場合にも直進車の存否、動静を確認せずに右折することは許されないところである。そして直進車としても右折車が自車の動静を確実に注視してくれるものと期待している。

三  ところで本件のごとく二本の道路が交差する交差点に設置された信号機の表示は、通常自車線と対向車線とが同様の変化をするようになつており、その例外として付属信号で左折可、右折可を青矢印で表示するものがある。

しかるに本件交差点の原告単車とこれと対向する被告車との各信号表示は、例外中の例外たる時差式である。これを本件交差点の略図である別紙図面並びに各信号機の表示を示した別紙サイクル表をもとに説明すると、東京方面から進行して来て本件交差点に差しかかつた原告単車の対面信号たる「1の(ロ)」と「4」が黄となつていても、これと対向する被告車の対面信号たる「2の(ロ)」「3」は青のままである時間があるわけである。

しかしかかる信号表示は例外中の例外であるから、被告車と同じく厚木方向から本件交差点に差しかかつた車両の運転手は、自車の信号表示が青であるなら、原告単車が進行して来た対向車線の信号表示は、実際は黄や信号の変り目の赤であつても自車と同じく青で、直進して来るものと当然判断する。

その結果原告ら代理人の調査したところでも、被告車のごとく厚木方面から進行して来て本件交差点で右折しようとする車両は、自車の対面信号が青である場合には、対向車線の信号表示が実際は黄もしくは信号の変り目の赤であつても、自車側と同じく青だと判断し、直進車優先の原則に従い一時停止して直進車を先に通過させている例が多数ある。そしてこれに対応して原告単車のごとく東京方面から進行して来た車両は、対面信号が黄もしくは信号の変り目の赤であつても本件交差点に進入している。

四  結局、信号交差点における右折車の運転手は、付属信号の青矢印による右折信号がある場合のみ対向する直進車に対面する信号表示は赤で、直進車はその信号表示に従い停止するであろうことを信頼することを許され(但しこの場合でも信号の変り目数秒間については直進車があり得、よつて除外すべきは前記のとおりである)、よつて右折車の運転手として直進車の動静について一応の注意義務をなすことで右折することが認められる。

しかし本件のごとき信号交差点では、かくのごとき信頼をなすに足る基礎はなく、少なくとも青信号で右折しようとする被告車には、直進車たる原告単車の信号表示が黄もしくは赤なのに交差点で停止することなく進行して来たとしても、青信号で直進して来る車両に対するのと同等の重い注意義務が課せられていると解すべきである。

従つて原告単車が、対面信号が青もしくは黄なのに本件交差点に進入したのであれば、亡英男に過失はないか、僅少の過失が肯定されるのみである。また仮に原告単車が赤信号を無視して本件交差点に進入したとしても、本件交差点の右のごとき信号表示関係を考慮すると、信号の変り目から相当経過した後の赤信号で進入したことが明らかな場合のみ、被告は免責されると解される。

しかるところ、被告は原告単車が赤信号無視で本件交差点に進入したと主張するのみで、右のごとき立証を尽くしておらず、よつて被告の抗弁は認められないところである。結局本件交差点の見通しが良好であること、前記のごとき信号表示関係であること、を考慮すると、仮に原告単車が赤信号無視で本件交差点に進入したとしても、それは信号の変り目のことと推認でき、よつて被告車の過失割合が五〇パーセントを下回らないことは明らかである。

「反訴請求原因に対する答弁」

反訴請求原因一項中、原告単車と被告車の衝突については認めるが、その余の原告単車が衝突の反動で飯田車に衝突したとの点は否認する。

同二項中、亡英男と原告両名との身分関係は認めるが、本件事故が亡英男の過失によつて生じたとの点は否認する。その詳細は前記のとおりである。

同三項中、被告が反訴提起のため訴訟委任をしたことは認めるが、その余の事実は不知。

(被告)

「本訴請求原因に対する答弁」

本訴請求原因一、二項は認めるが、次に述べるとおり被告が本件事故につき責任を負うものではない。

同三項中、原告らの身分関係、及びその主張額の損害の填補を受けたことは認めるが、その余の事実は不知、また慰藉料額は争う。

「免責の抗弁並びに過失相殺の抗弁」

一  本件事故は、亡英男において対面信号が赤で一時停止しなければならないのにこれを無視して猛スピードのまま本件交差点内に進入し、何ら急制動の措置をすることなく被告車の左前部に自車前部を衝突させて生じたものであり、よつて亡英男の一方的過失によるものであり、訴外小山には過失はなく、被告は免責される。

仮に被告側に何らかの過失があつたとしても軽微なものであるから、過失相殺をすれば原告らは既に填補を受けた分で、その全損害の填補を受けている。

二  亡英男が赤信号無視で本件交差点に進入したことは、勝田方面から本件交差点に差しかかり、左折しようとした飯田一富において、本件交差点で赤信号のため一時停止し、対面信号が左折可の青矢印に変つて発進しようとした時に本件事故が生じている。この左折可の青矢印が出ている時は、亡英男が進行して来た車線の対面信号は必ず赤であるから、この点は明らかである。

また原告単車が時速一〇〇キロを上回る猛スピードであつたことは、訴外小山において対向車線を確認して車両が存在しないことを確認して後、時速約五ないし一〇キロ位で右折を開始したところ、その約一乃至二秒後に本件事故が生じていることからすれば、原告単車は訴外小山から見えない位遠い地点にいたのに、その一乃至二秒後に衝突地点に達していることから推認できる。

「反訴請求原因」

一  事故の発生

本訴請求原因一項記載のとおりの事故が生じ、その衝突の反動で原告単車は、勝田方面より進行して来た訴外株式会社三弥所有の飯田一富運転の普通乗用車(品川一一さ九〇六八、以下「飯田車」という)の前部に衝突した。

二  原告らの責任

前記「免責並びに過失相殺の抗弁」において主張したとおり本件事故は亡英男の一方的過失によつて生じたものであるから、同人は不法行為者として本件事故によつて被告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

そして原告桂子は亡英男の妻として、原告はまたはその母として右賠償債務を各二分の一宛相続した。

三  損害

(一) 被告車修理費 五七万一、〇五〇円

本件事故により被告車はフロントバンパー、ドア等が破損し、右額の修理費を負担した。

(二) 休車損 一八万五、〇四〇円

被告は、被告車ほか一台の車両を用いて生コンクリートの運搬業をしているところ、本件事故による破損の修理に六〇日を要し、その間被告車を利用できず損害を蒙つた。その額は、被告の年間純利益は二二五万一、四一四円と見込まれるので、その二分の一は被告車によるものとして、一日当り三、〇八四円となり、その六〇日分たる右金額を相当とする。

(三) 立替払分 一〇万六、一七〇円

飯田車の破損修理代として訴外株式会社三弥に対して右金額を支払つた。

(四) 弁護士費用 八万六、〇〇〇円

反訴提起のため被告は弁護士に訴訟委任をし、右金額の裁判手続費用を支払つた。

四  結論

よつて被告は、原告らに対して各四七万四、一三〇円及びこれらに対する反訴状送達の翌日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める次第である。

第三証拠〔略〕

理由

第一事故態様等について

一  本訴請求原因一項の原告単車と被告車との衝突事故が生じたことは当事者間に争いがなく、そしてこの事実に成立に争いのない甲第八号証の一ないし一四(昭和五〇年一一月二三日、原告代理人御園賢治撮影の本件事故現場の写真)、同じく乙第一号証、同第二号証の一ないし五(昭和四九年一月二五日、小山敏明撮影の事故現場の写真)、原告小堺はま本人尋問の結果、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第九号証、証人飯田一富、同小山敏明の各証言を総合すると、事故現場の状況、事故の態様は次のとおりであることが認められる。

(一)  本件事故現場は、国道二四六号線上の信号機による交通整理の行なわれている交差点内で、事故は、同国道を東京方面から進行して来て本件交差点を直進しようとした原告単車が、対向車線を厚木方面から進行して来て本件交差点を右折して大棚方面(勝田方面)に向おうとした被告車と交差点中央付近(約一・五メートル原告単車進行車線に入つた地点)で衝突したものである。

さらに右衝突直前被告車の運転者たる小山敏明において原告単車を認め、右に急転把して急制動の措置をとつたのと、右衝突によりハンドルの軸棒が破損したため、被告車は衝突によつて転倒した原告単車を押しながら右前方に滑走し、そして大棚方面からの本件交差点入口に停車していた飯田一富運転の飯田車と原告単車を間に挾んで右前部同志が衝突するに至つた。なお飯田車は本件交差点を左折すべく右場所に停車していたものである。

(二)  本件交差点の停止線の位置、信号機の設置場所等の状況、各道路の幅員、原・被告車の進路、飯田車の停止位置等は大略別紙図面のとおりである。

原・被告車の進行した国道二四六号線は事故現場付近で速度制限毎時六〇キロ、別紙図面のごとく中央分離帯で分離された片側二車線の平坦なアスフアルト舗装道路で一五〇メートル前方まで見通せる状態で、事故当時路面は乾燥していた。

(三)  右の本件交差点の状況、信号機の設置場所からすると、本件交差点に進入するに際して亡英男は別紙図面「4」(及び「1の(ロ)」、以下同様)の信号機の表示を、飯田一富は同じく「2の(イ)」の信号機の表示を確認すべきことになる。

他方被告車は厚木方面から進行して来て本件交差点を右折しようとしたのであるから、運転者たる小山敏明は「3」の信号機の表示が青であることを確認して本件交差点に進入したうえ、東京方面からの対向車との衝突の危険がないことを確かめたうえ右折発進することになる。

(四)  ところで原告ら主張のごとく、原告単車の対面信号機たる「4」と、被告車の対面信号機たる「3」の各信号表示は時差式となつており、他方飯田車の対面信号機たる「2の(イ)」は左折可の青矢印を表示する付属信号がついている。

すなわち右の「3」と「4」との各信号機は同一道路上に設置された信号機ではあるが、同時に青から黄、赤へと変わるのではなく、「4」の方が先に黄さらに赤となつて東京方面からの車両を停止させ、この間に被告車のごとく厚木方面から来て本件交差点を右折しようとする車両を右折させるようになつている。

(五)  これら各信号機の正確な事故当時のサイクル関係は現在にあつては知りようがないところである。

しかし飯田車のごとく大棚方面から来て本件交差点を左折する車両は、原告単車のごとく東京方面から進行して来た車両の前に出て来る関係になるので、飯田車の対面信号機たる「2の(イ)」の付属信号が左折可の青矢印を表示する時には原告単車の対面信号機たる「4」が必ず赤を表示することは変らないところである。

なお原告ら代理人弁護士御園賢治が昭和五〇年一一月二三日に調査したところでは、本件交差点の信号機のサイクル関係は別表のとおりであつた。本件事故当時もほぼこのとおりであつたと推察されるのであるが、少なくとも「2の(イ)」の付属信号が左折可の青矢印を表示するのは、「4」の信号表示が青から黄三秒、赤約二秒を経過してからであるとの点は事故当時と同じだと推察される。

(六)  前記のごとく「3」と「4」の信号表示が時差式になつていても厚木方面からの車両には「4」の信号表示は判らないところである。

その結果厚木方面からの右折車のうち少なからぬものが「4」も「3」と同じ信号表示にあるとの判断のもとに「4」の信号のみが黄もしくは赤になつている場合でも交差点中央で一時停止して東京方面からの直進車を優先させようとの態勢をとる。そのため東京方面からの車両のなかには「4」の信号機が黄あるいは赤を表示しているのに本件交差点を通過すべく進入しているものがある。

原告らはかかる信号無視の車両の何台かを撮影している(甲第八号証の一ないし一三の写真)。しかしこの写真のなかにも「2の(イ)」の付属信号が左折可の青矢印を表示している時点で本件交差点を東京方面から通過している車両はまつたくない。

二  本件事故現場の状況及び事故態様は右認定のとおりであるところ、これによれば被告が反訴請求原因一項で主張するところとは態様を異にするが、原告単車と被告車との衝突が原因となつて飯田車もまた損傷を蒙つたことが認められる。

三  そこで次に原告単車と被告車の衝突がいずれの運転手の過失に起因するものかについて検討するに、右認定事実に前記乙第一号証、証人小山敏明、同飯田一富の各証言を総合すると次の事実が認められる。

(一)  前記のとおり小山敏明は、被告車を運転して厚木方面から進行して来て本件交差点を右折しようとしたのであるが、本件交差点には別紙図面のとおり中央車線よりを進行して差しかかり、交差点手前約三〇メートルの地点で右折合図をするとともに、同じく約一五メートル手前で時速約二〇キロに減速した。そしてこの減速した地点及び交差点入口で前方別紙図面に「3」と表示してある信号機を見たところいずれの時点でも青だつたのでさらに時速約一〇キロに減速してそのまま交差点に進入して右折を開始した。

同人は交差点に進入した直後に前方東京方面を見たところ対向して来る車両は認めなかつた。そこでそのまま右折を続けたところ、交差点中央の中央車線にかかつたところで、突然右前方約八メートルの地点に対向して来る原告単車を認めた。そこで右転把するとともに急制動の措置をとつたのであるが、及ばす衝突に至つた。

(二)  他方前記のとおりこの時飯田一富は本件交差点の大棚方面からの入口で一時停止して信号待をしており、そして被告車が交差点中央に来たのに気づいていた。しかるにこの時対面信号たる別紙図面「2の(イ)」の信号機の付属信号が左折可の青矢印を表示したのを認めた。そこで同人はギヤを入れて発進しようとしたところ、まさにその時原告単車と被告車とが衝突するのを目撃した。

三  すなわち衝突当時別紙図面「2の(イ)」の信号機の付属信号は左折可の青矢印を表示していたものである。

そして証人小山敏明は事故当時原告単車は時速八〇キロ位で走行していた旨供述するが、この供述をそのまま採用できないとしても事故態様、被告車の進行経過等に鑑み、原告単車は制限速度を上回る速度で走行していたものと推認される。

そうだとすると、原告単車の速度、前記のとおりの信号のサイクル関係(「4」の信号機が赤を表示してから約二秒経過して「2の(イ)」の信号機の付属信号が左折可の青矢印を表示する)を勘案すると、亡英男は自車の対面信号たる「4」が赤を表示しているのにこれを無視して本件交差点に進入したとしか考えられないところである。

もつとも原告らの信号のサイクル関係の調査が事故当時のものでなく、交差点の長さが明確ではないので、この点を亡英男を有利に考慮するとしても、同人は「4」の信号機が三秒というかなり長い黄から赤に変る直前に本件交差点に進入したものとしか考えられず、やはり同人の信号無視は明らかである。

他方被告車の運転手たる小山敏明においても右認定のとおり対向して来る車両の有無を確認することなく対向車線に進入している。同人において今一度この点を確認しておれば容易に原告単車が対向してくるのに気付いたはずで、そうすれば本件事故は未然に防ぎ得たものである。

四  なお原告らは飯田一富はいわゆる見込み発進しようとしていたもので信号を見ていなかつた旨主張する。しかし前認定のとおり同人が進入しようとしていたのは国道二四六号線の幹線道路であり、また前記乙第二号証の一ないし五の本件事故現場の写真によれば同人から、右方原告単車の進行して来た東京方面の見通しは良くないことが認められる。従つて原告ら主張のごとく飯田一富が信号を確認しないで見込み発進しようとしたとは考えられないところである。

五  以上の次第で、本件衝突事故は、亡英男の前方不注視、信号無視と小山敏明において前方を確認することなく漫然と対向車線に進入したことによる過失とが競合して生じたものである。

双方の過失割合であるが、前記のとおり亡英男は同人に有利に考えても、赤信号への変り目の黄信号を無視してかなりの高速で本件交差点に進入したのであり、そして本件事故の原因の大半は同人のかかる重大な過失によるものである。もつとも対向車両の対面信号の信号表示は判らないのに漫然対向車線に進入した小山敏明の過失も少なくない。

これら事情並びに双方の車種等彼此勘案し、双方の過失割合を原告単車七、被告車三とみるのが相当と判断する。

第二被告の責任

一  被告は、被告車の運行供用者であることは自認しているところ、前記のとおり本件衝突事故は運転手たる小山敏明の過失も原因となつているので、その免責の抗弁は理由がなく、よつて本件事故による人的損害を賠償すべき責任がある。

二  そこで原告らの損害について検討するに、成立につき争いのない甲第二号証、同第三号証の一、二、同第六、第七号証、原告小堺桂子本人尋問の結果により成立の認められる甲第四号証の一ないし七、同第五号証、同原告本人尋問、原告小堺はま本人尋問の各結果を総合すると、亡英男は昭和一七年五月二七日生れ(事故当時三一歳)の男子で、昭和四二年九月一一日に原告桂子と婚姻届をし、事故当時母たる原告はまと同居していたこと、昭和四四年頃から原告桂子の兄の営む康友建設に勤務し、土木工事、造園等に従事していて、本件事故も工事現場に赴く途中に生じたものであること、同人が昭和四八年度に勤務先の康友建設から支払を受けた給与の総額は一七二万二、〇〇〇円であり、このほかに原告桂子の父の営む造園業を手伝い、月平均四万円位の祝儀を得ていたこと、本件衝突事故により亡英男は路上に投げ出されて重傷を負い直ちに横浜市緑区所在の青葉台病院に運ばれ、内臓が破裂しているとのことですぐ手術を受けたが、その日のうちに死亡するに至つたこと、同人の葬儀費用、墓地の設置費等は四三万円余を要したのであるが、原告両名において等分に負担したこと、の各事実が認められる。

右事実を前提として原告らの損害を算出すると次のとおりとなる。

(一)  治療費等 二九万一、六一〇円

青葉台病院支払治療費二八万三、六一〇円(前記甲第二号証)

文書料八、〇〇〇円(前甲第三号証の一、二)

(二)  逸失利益 二三六八万三、〇〇〇円

前認定事実によれば、亡英男は本件事故により死亡することがなければ六七歳までの三六年間にわたつて年額二二〇万二、〇〇〇円の収入を得ることが出来たことになる。同人の家族構成に鑑みその生活費は原告ら主張のとおり三五パーセントと認められるのでこれを差引いた残額を純益とみて、ライプニツツ式計算法により年五分の中間利息を控除して現価に引直すと二三六八万三、〇〇〇円となる(係数一六・五四六八、但し一、〇〇〇円未満切捨)。

(三)  葬儀費用 四〇万円

前事実に鑑み葬儀費用として各二〇万円宛合計右金額の限度で本件事故と因果関係のある損害とみるのを相当とする。

(四)  慰藉料 各四五〇万円

前認定の原告らと亡英男との身分関係(但し身分関係そのものは当事者間に争いがない)、生活関係を考慮すると、亡英男の死亡による慰藉料は、同人の過失を考慮しない場合の慰藉料はその主張どおり各四五〇万円をもつて相当とする。

(五)  過失相殺、損害の填補

亡英男と原告らとの身分関係によれば、原告らは等分に亡英男の右(一)治療費、(二)逸失利益の各賠償請求権を相続により承継するので、この相続分及び各自の損害を合計すると、原告らは各々一六六八万七、三〇五円の賠償請求権を有することになる。

しかし本件事故発生についての前記亡英男の過失を考慮すると、その三割に相当する各自五〇〇万六、一九一円の限度で被告に填補を請求できるにとどまることになる。

そして原告らにおいて合計八二五万八、二八八円の填補を受けたことは自認しているところなので、原告ら主張のとおり等分に右損害賠償請求権に充当すると残額は各八七万七、〇四七円となる。

(六)  弁護士費用 各九万円

本件事案、審理経過、認容額に照らし、原告らに生じた弁護士費用のうち右限度で本件事故による損害とみるのを相当とする。

(七)  結論

よつて原告らは被告に対して各自九六万七、〇四七円の損害賠償債権を有することになる。

第三原告らの責任

一  前記のとおり本件衝突事故は亡英男の過失も原因となつているから、同人は不法行為者として被告に生じた損害を賠償すべき義務があり、また被告において飯田車の所有者に対して、生じた損害を賠償した分については共同不法行為者として過失割合に応じて求償に応ずる義務がある。

二  そこで本件事故による被告に生じた損害等についてみるに、被告本人尋問の結果により成立の認められる乙第四ないし第七号証(但し乙第七号証のうち官公署作成部分については成立につき争いはない)、同本人尋問の結果によれば、前記のとおり被告車は原告単車と衝突し、その後さらに滑走して原告単車を間に挾んで飯田車と衝突したのであるが、この事故により被告車の前部は大きく破損しブレーキ関係等にも故障が生じ、また飯田車の前部も破損したこと、そして被告は飯田車の所有者たる株式会社三弥より事故直後の昭和四九年一月末頃修理工場作成の修理見積書を示されて、修理代金一〇万六、一七〇円を請求されたので、その頃同社にこの金額を支払つたこと、次に被告車の修理については、被告において資金の余裕がなかつたこともあり、できるだけ従前の部品及び中古の部品を使用して修理して貰つたところ、修理費は五七万一、〇五〇円ですんだが、修理に二ケ月を要したこと、被告はブロツクの製造、販売、生コンクリートの販売を営んでおり、生コンクリートの販売は被告車を含め二台のミキサーを使用してこれにあたつていること、昭和四八年一月から一年間の生コンクリートの年間売上げは二、〇一八万九、〇〇〇円で、これから原価、人件費、保険料等の雑費を差引いた純益は二二五万一、四一四円になり、従つてミキサー車一台当りの一日の純益は三、〇八四円となること、もつともこの純益は税務申告を基準として算出したもので、実際はミキサー車一台当りの一日の純益は一万円近くであること、の各事実が認められる。

右事実を前提として被告の損害を算出すると、次のとおりとなる。

(一)  被告車の修理費 五七万一、〇五〇円

(二)  休車損害 一八万五、〇四〇円

被告車の修理期間がやや長期であるが、右認定のとおりそれは修理を安くしようとしたためであり、また一日当りの休車損害も低く見積られている。従つて被告の請求する一日当り三、〇八四円の六〇日分の合計一八万五、〇四〇円の休車損害は相当と判断される。

(三)  過失相殺

右損害合計は七五万六、〇九〇円となるところ、被告車の運転手たる小山敏明の過失を斟酌してその七割に相当する五二万九、二六三円の損害賠償の義務を亡英男は負担したことになる。

(四)  求償債権 七万四、三一九円

前認定事実からすると、被告が飯田車の所有者に損害賠償として支払つた額は、適正な額と推認される。よつて亡英男は過失割合に応じて被告に対しその七割にあたる七万四、三一九円の求償に応ずる義務がある。

(五)  相続関係

右合計は六〇万三、五八二円となるところ、前記身分関係からして原告両名は亡英男のこの債務を相続により等分に承継することになる。

よつて被告は原告両名に対して各三〇万一、七九一円を請求できる。

(六)  弁護士費用 計六万円

本件事案、審理経過、認容額に鑑み、被告に生じた弁護士費用のうち原告両名に対して各三万円宛計六万円の限度で本件事故による損害とみるのを相当とする。

(七)  結論

よつて被告は、原告両名に対して各三三万一、七九一円の債権を有することになる。

第四まとめ

そうすると本訴請求については、原告らにおいて被告に対して各九六万七、〇四七円及びこのうち弁護士費用を除く各八七万七、〇四七円に対する昭和四九年一月一八日(事故当日)以降各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、反訴請求については被告において原告両名に対して各自三三万一、七九一円宛及びこれらに対する事故後であり且つ被告において飯田車の所有者に修理代金を支払つた後である昭和五一年三月一七日(反訴状送達の翌日)以降名支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。よつてこの限度でそれぞれ請求を認容し、その余の各請求は理由がないのでいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部崇明)

現場略図

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交通信号サイクル表

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